ヒストリシズム(歴史法則主義)の貧困

ヒストリシズム(歴史法則主義)の貧困
ポパーの提唱するピースミール社会工学には、プラトンからヘーゲルマルクスへと続く、歴史に対して何らかの法則性を認めそれに従って「社会計画」を策定する方法への批判がある。

ヒストリシズムとは「歴史的な予測が社会諸科学の主要な目的であり、またその目的は歴史の進化の基礎となる「リズム」や「パターン」、すなわち「法則」や「傾向」を見出すことによって達成できる、とする社会諸科学への一つのアプローチ」(『貧困』p.3訳18頁)である。

しかし先に述べたように「予測」は、普遍的に妥当する一般的法則と特定な初期条件が揃って初めて可能である訳であり、初期条件を無視して、歴史から経験的に、普遍妥当するような法則を導くことはできない。たとえマルクスの「生産手段への蓄積」のようなものが発見されたとしても、それは単に「趨勢」に過ぎず、人口の急減少などの「条件変化」によって通用しなくなるのである。

ポパーは因果性を認めつつもそれに厳密な条件、制限を与えているのである。またそもそも普遍的言明(法則の意味内容)というものは、非存在言明である(P[1959]15節)。たとえば「すべてのカラスは黒い」といえば「黒くないカラスは存在しない」というように、何事かの存在を認めるのでなく、むしろそれ以外のことが存在し得ない事をいうものなのである。