【 推進派への転向組 】

グリーンピースUKの前代表スティーブン・ティンデール

高木仁三郎は最後まで原発懐疑派の立場を貫き通したが、海外では、反原発の活動家が原発推進家に転向した例は決して少なくない。彼らの転向理由は地球温暖化だという。
たとえば、グリーンピースUKの前代表スティーブン・ティンデール(Stephen Tindale)は、インディペンデント紙に、原発推進派へ転向したときの気持ちをこう答えている。

Mr Tindale said.

“My change of mind wasn’t sudden, but gradual over the past four years. But the key moment when I thought that we needed to be extremely serious was when it was reported that the permafrost in Siberia was melting massively, giving up methane, which is a very serious problem for the world,” he said.

It was kind of like a religious conversion. Being anti-nuclear was an essential part of being an environmentalist for a long time but now that I’m talking to a number of environmentalists about this, it’s actually quite widespread this view that nuclear power is not ideal but it’s better than climate change,” he added.

出典: Nuclear power? Yes please..., The Independent, 23 February 2009

このインディペンデント紙の記事では、原発を支持する四人の有力な環境主義者が紹介されており、そのうち、スティーブン・ティンデールとマーク・ライナス(Mark Lynas)が原発推進派に転向したときの気持ちを述べている。ちなみに、マーク・ライナスは、『+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ』(寺門和夫 監修, 翻訳)の著書でも知られている環境コメンテーター。残りの二人は、「英国版グリーン・ニューディール」を推進している英国の環境庁長官クリス・スミスChristopher Robert Smith)と緑の党の活動家で作家のクリス・グドール(Chris Goodall)。
ティンデールが共同設立者を務める『Climate Answers』というウェブサイトを見ると、ティンデールはグリーンピースUKの前代表だったことから、現在では気候とエネルギーのコンサルタントとして活動しており、欧州ではかなりの影響力をもっているようで、欧州改革センター(Centre for European Reform; CER)のAssociate Fellowや、英国の環境大臣マイケル・ミーチャー(Michael Meacher)のアドバイザー、イギリス公共政策研究所(Institute for Public Policy Research; IPPR)のSenior Research Fellowなど、さまざまな役職に就任していることがわかる(Climate Answers - About Stephen Tindale and Jon Trevelyan)。

そのティンデールの原発推進のためのレトリックは、低炭素へ向けた”つなぎの技術”(bridge technologies)というものだ。

That is why we need low-carbon bridge technologies to get us there without destroying the climate.

出典: Climate Answers - Question: Why should I accept nuclear power with no strategy for its wasted disposal?

小宮山宏も「原子力はつなぎだ」と同じ理屈をほざいているようだが、この男はいつも人のパクリばかりで、知の構造化Knowledge structuring of issues)だとか、サステイナビリティ学だとかもそうだ。欧米の学問を輸入して翻訳・紹介すれば、学問になると思っているのだ。モノマネ学者だから、向こうの話をそのまま鵜呑みにして、受け売りの言葉を垂れ流すだけの脳みそ空っぽ男だ。そのあまりのノーテンキぶりに呆れ果てているのは私だけではないようだ(参考ブログ: 前東大総長曰く「3・11 科学技術は負けない」, 小笠原信之のコラムログ「閑居愚考」)。

しかしながら、日本では長年、海外の理論を輸入することが社会学の目的とされてきたため、現実の社会現象の解明には、必ずしも積極的でない研究者も多い。むしろ哲学的議論や、理論のみの研究、歴史や学説史のみを重視する研究も、いまだに多数存在するのが事実である。例えば東京大学京都大学早稲田大学慶應義塾大学などの伝統ある社会学研究部門では、理論研究者は多いが調査経験は少ない教員が多く、専任教員だけでは社会調査教育や社会調査士資格に対応できない現実もある。それらの大学では、教員の多くが理論の輸入や解釈を主目的としているため、新しい知見の発見は困難である。そのため国際学会での発表経験が乏しいか、発表能力がほとんどない教員も多い。

出典: 社会学 - Wikipedia (2008年1月17日 (木) 10:38 UTC)

グリーンピースUKの事務局長を務めたピーター・メルシェット

1989年から2000年までグリーンピースUKの事務局長を務めたピーター・メルシェット(Peter Melchett)は、その後も、グリーンピースの幹部として留まりながら、アメリカのバーソン・マーステラ(Burson-Marsteller)というPR会社のコンサルタントに就任し、温暖化対策としての原発を公式に承認したことでも知られている。

Sir David King, Chief UK government science advisor, says the nuclear power plants are the only realistic way to satisfy the growing energy demands while meeting global warming targets. And former UK Greenpeace leader Peter Melchett has also publicly endorsed this concept.

出典: HubPages - Is Nuclear Energy a Solution to Climate Change

ところで、バーソン・マーステラは、大規模な環境汚染事故などを引き起こした会社の企業イメージのダメージコントロールを請け負うPR会社としても知られている。エクソンバルディーズ号原油流出事故に関連して行った世論操作が原因で、ユナボマー(セオドア・カジンスキー)の郵便爆弾でバーソン・マーステラの執行役員が殺害されるという事件もおきている。

In 1994, Burson-Marsteller executive Thomas J. Mosser was killed by a mailbomb sent by "Unabomber" Theodore Kaczynski. In a letter to the New York Times Kaczynski said he targeted Mosser because the company "helped Exxon clean up its public image after the Exxon Valdez incident" and, more importantly, because "its business is the development of techniques for manipulating people's attitudes."

出典: Burson-Marsteller - Wikipedia, the free encyclopedia

グリーンピースの創設者パトリック・ムーア

グリーンピースの創設者の一人であるパトリック・ムーア(Patrick Moore)は、現在はグリーンピースを脱退し、グリーンスピリット・ストラテジーズ(Greenspirit Strategies Ltd.)というコンサルティング会社を運営している。ムーアは、反原発派を説得するには、地球温暖化のカタストロフィーを強調すればよいとの戦略を述べている。

地球温暖化対策の観点から原子力の有効性について発表を行ったのは、グリーンスピリット・ストラテジーズの議長兼主任科学者を務めるパトリック・ムーア氏です。ムーア氏は、環境団体グリーンピースの創設者の一人でありながら、科学的論拠を無視した同団体の主義を受け入れず、20年ほど前にグリーンピースを去りました。「反原子力の環境団体に対して説得すべき点は何であるか」との会場からの質問に対して、同氏は、「地球温暖化ガス排出が最も深刻な環境問題であり、破局的状況に向かっているとの認識を共有することが重要。環境団体が原子力に対する反対姿勢を転換しない限り、彼ら自身が地球温暖化ガス低減上の最大の障害となってしまう点である」と述べました。

出典: NEI原子力総会にてブッシュ大統領が原子力新設の必要性を強調, 海外エネルギー情報|学ぶ・知る・楽しむ|東京電力, 2006年6月2日


下記に紹介する東奥日報の記事によると、茅陽一が代表を務める「フォーラム・エネルギーを考える」が主催した「『原子力立国・ニッポン』を世界から見る」というシンポジウムで、パトリック・ムーアは「原子力産業は労働災害も少なく、最も安全な産業だ」と述べている。

 「『原子力立国・ニッポン』を世界から見る」と題したシンポジウムが二十三日、青森市のホテル青森で開かれ、環境保護団体「グリーンピース」の共同創設者で後に原子力推進論者へと“転向”したパトリック・ムーア氏(カナダ)が「原子力産業は労働災害も少なく、最も安全な産業だ」などと訴えた。

シンポは「フォーラム・エネルギーを考える」(代表・茅陽一東京大学名誉教授)の主催。

出典: グリーンピース創設者のムーア氏「原子力は安全産業」, 東奥日報, 07/1/24


ちなみに、茅陽一は、IPCCの熱心な擁護者としても知られている(IPCCの信頼性は揺らいでいない 日本の研究者有志が声明, 2010年9月24日, 日本経済新聞)。また、原子力政策円卓会議モデレーターを務めるなど、原発推進派としても知られており、日経BPのECOマネジメントのインタビューでも温暖化対策としての原発を提唱している( 省エネだけでは限界 原子力含めた総合戦略を, bp special ECOマネジメント/インタビュー)。

ここで紹介した元グリーンピースの転向者たちは、いずれも、IPCCを擁護する原発ロビイストであり、二酸化炭素による人為的温暖化説と深く結びついているという特徴がある。彼ら元グリーンピースの英国人メンバーは、押しなべて、コンサルタント業に精を出し、一様に原発の容認、あるいは、推進派への転向を表明しているという共通の特徴がある。

彼らは温暖化に対する恐怖が原発推進派に転向させたというが、それが本当に本音なのだろうか。スティーブン・ティンデールは、放射性物質など原発に関するリスクは無視できないが、地球温暖化による6℃のリスクよりは深刻ではないという。これからも、そう主張するのだろうか。かれら「原発懐疑派バスターズ」の今後の行動に注目だ。

There are clearly risks associated with nuclear power, including radioactive waste, pollution and cost. These are serious, and certainly cannot be ignored, but they are less serious than the risk of a six-degree rise in global temperatures.

出典: PSI: Nuclear power: for and against: Stephen Tindale, Date: 31 March 2009


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