福島原発の脆弱性


図の出典: Setting the Record Straight on Mark I Containment History | GE Reports


圧力抑制室の脆弱性
福島原発の原子炉は、GE(General Electric)のマークI型(Mark I)とよばれるタイプだ。この原子炉の問題点は、圧力抑制室(圧力抑制プール; suppression pool)にある。事故発生時において水素が発生した場合に、GEのデザインした小さな圧力抑制室では、水素が充満しやすく、たやすく爆発性の混合物を形成する。そのため、水素の発生が深刻な問題に陥る傾向があることを、今から39年前の1972年に米原子力委員会(Atomic Energy Commission)の専門家によって指摘されていた。

We are requiring an independent evaluation of the ice condenser design and its bases to make less probable any comparable misinterpretation of this design.


Since the pressure-suppression containments are smaller than conventional "dry" containments, the same amount of hydrogen, formed in a postulated accident, would constitute a higher volume or weight percentage of the containment atmosphere. Therefore, such hydrogen generation tends to be a more serious problem in pressure-suppression containments. The small GE designs (both the light-bulb-and-doughnut and the over-under configura-tions) have to be inerted because the hydrogen assumed (per Safety Guide 7) would immediately form an explosive mixture.

出典: United States Atomic Energy Commission Washington. P.C. 20545 September 20, 1972
PDF: http://www.scribd.com/doc/51075406/Atomic-Energy-Commission-on-Mark-I-Reactor-in-1972
PDF: http://graphics8.nytimes.com/images/blogs/greeninc/hanauer.pdf

ニューヨーク・タイムズも、米原子力委員会の専門家が1972年、この原子炉は水素がたまって爆発した場合、放射能を封じる格納容器が損傷しやすいため、「使用を停止すべき」と指摘した、と報じた。

 今回、事故を起こしたのは「マーク1」という沸騰水型原子炉の一種で、60年代にGEが開発した。中心の燃料棒を圧力容器、さらにその外側をフラスコ状の格納容器で守っている。格納容器が小さく、設備建設費が安く済むため、計104基の原子炉が稼働している米国では同型の炉が23基も稼働している。米国外にも9基あり、計32基が現在も運転中だが、格納容器が小さいゆえに、水素爆発で損傷するリスクが高いというのだ。

出典: 事故原発は“欠陥品”? 設計担当ら35年ぶり仰天告白, ZAKZAK(夕刊フジ), 2011.03.18

In 1972, Stephen H. Hanauer, then a safety official with the Atomic Energy Commission, recommended that the Mark 1 system be discontinued because it presented unacceptable safety risks. Among the concerns cited was the smaller containment design, which was more susceptible to explosion and rupture from a buildup in hydrogen ― a situation that may have unfolded at the Fukushima Daiichi plant.

出典: TOM ZELLER Jr., Experts Had Long Criticized Potential Weakness in Design of Stricken Reactor, The New York Times, March 15, 2011

Safety inspectors at America's Atomic Energy Commission (AEC) warned as early as 1972 that the General Electric reactors, which did away with the traditional large containment domes, were more vulnerable to explosion and more vulnerable to the release of radiation if a meltdown occurred.

Michael Mariotte, director of the Nuclear Information and Resource Service, said: "The concern has been there all along that this containment building was not strong enough and the pressure containment system was not robust enough to prevent an explosion."

出典: Suzanne Goldenberg, Japan's nuclear crisis: regulators warned of reactor risk, The Guardian, 14 March 2011

「マークIは大規模事故に耐えうるようには設計されていません。冷却システムがギリギリの容量で設計されているため、電力供給が途絶えて冷却システムが止まると、爆発を起こす危険性がある。使用済み核燃料の貯蔵プールも最新型のように自然に冷やされるタイプではないため、電気が切れるとすぐに温度が上がってしまう」

出典: 原発元設計者が米メディアで告白「原子炉構造に欠陥あり」, 週刊朝日, 2011年04月01日号

参考ブログ: 東京電力福島原発の正体 Part_4, 格闘する21世紀アポリア
参考ブログ: 福島原発 GE製マーク?型 米専門家 「脆弱なモデル」, successのブログ


一方、これらの指摘に対して、GEのサイトによると、GEの圧力抑制プールは安全なデザインであるとの米原子力規制委員会のスタッフの結論を紹介している。

Claim: The Mark I should have been discontinued, based on a statement made in 1972 by Stephen Hanauer, an Atomic Energy Commission official, who said that its smaller containment design was more susceptible to explosion and rupture from a buildup of hydrogen.


Fact: In 1980 the NRC advised that it had given careful consideration to concerns raised by Mr. Hanauer’s 1972 memorandum about the Mark I and that “the staff, including Dr. Hanauer, has concluded that the pressure suppression concept for containment design is safe.”

Setting the Record Straight on Mark I Containment History | GE Reports


しかしながら、実際には、2011年3月15日に東京電力福島第一原発2号機で爆発が起こり、『圧力抑制室に破損が見つか』ったと報道されている。

十五日午前六時十分ごろ、東日本大震災で自動停止した東京電力福島第一原発2号機で爆発音があった。午前十一時すぎに会見した枝野幸男官房長官は、「圧力容器が損傷を受けている可能性が高い」との見解を示した。また、経済産業省原子力安全・保安院や東電によると、原子炉格納容器の一部で炉心の圧力を下げる働きをする、圧力抑制室に破損が見つかり「格納容器につながる水蒸気を水に変える部分に欠損が見られる」と説明し、格納容器も破損していることを示唆した。かろうじて残っていた二つの封じ込め機能が失われ、放射性物質の外部放出が懸念される重大な局面を迎えた。


出典: 福島第一原発2号機 原子炉容器損傷, 東京新聞, 2011年3月15日 夕刊


安全性と引き換えに手に入れたコストパフォーマンス
GEの元社員デール・ブライデンボー氏はロイターのインタビューで、GEのマークI型の原子炉が「大規模事故による負担に耐えうるよう設計されていなかった」と、35年前に指摘したが、会社がそれに応じなかったため退職したという。今回の事故は果たして天災といえるのだろうか。

コストと安全性はトレード・オフの関係にあり、利潤の追求を第一とする企業としては、経済性を再優先させたのは当然の結果とも言えるかもしれない。自明のことだが、採算の面から安全性にかけられるコストには限度があり、しかも、コストを削れば削るほど儲かるというインセンティブが働く仕組みになっている。つまり、福島の原発事故は、起こるべくして起こった、構造的な人災と捉えることが出来るのではないだろうか。

ゼネラル・エレクトリック(GE)(GE.N: 株価, 企業情報, レポート)の元社員が35年前、今回事故があった福島第1原発の「マークI型」原子炉の安全性に対する懸念が理由で、同社を退社していたことが明らかになった。

 GEの元社員デール・ブライデンボー氏はインタビューに応じ、同社製「マークI型」原子炉について、大規模事故による負担に耐えうるよう設計されていなかった、と指摘。「当時、公共事業各社がこの事実を十分深刻に受け止めていたとは思わない。分析が終了するまで一部の原子力発電所は閉鎖されるべきだと思っていたが、GEや公共事業各社はそれに応じるつもりはなかった。そのため私はGEを退職した」と語った。

 さらに、同氏が指摘した設計上の問題は確かに第1発電所に知らされおり、かなりのコストを要することも明らかになっていた、と述べた。

米GE製の福島原発原子炉、安全上の問題を35年前に指摘, ロイター日本版, 2011年03月16日


燃料プールの配置の問題

Andreevは、福島の原子炉そばに置かれた使用済み燃料棒からのものを含む放射性物質を飛散させた火曜日の火事は、安全性よりも利益を重視させた典型例だという。
「日本は大変強欲に、使用済み燃料置き場のすべてのスペースを使ってしまった。しかし使用済み燃料を高密度でおけば、万一プールから水がなくなったときに火災が起きる可能性がとても高くなる。」

  また、使用済み燃料プールが会社のビルや運転中の原子炉に近すぎると指摘し、IAEAも設定基準に関して非がある、と述べた。ウィーンに本拠を置くこの機関が作った緊急事故対策チームは「ただのシンクタンクで現場の仕事をするわけではない」とこきおころした。
  これはただのインチキ組織で、なぜなら原子力産業に依存する組織はすべて−そしてIAEA原子力産業に依存している−きちんとそのあるべき役割を果たすことはできないからだ。」

IAEAはいつも現実を隠そうとする。IAEAは・・原子力産業で起こる可能性がある事故に世間の注意を喚起する気などない。彼らは緊急事態に備えて活動している組織にまったく関心がない。」

チェルノブイリ原発事故汚染除去専門家が日本、IAEAを激しく非難, 日刊ベリタ, 2011年03月17日


欠陥工事

「建設中に工事の不具合はいくらでも出てくる。数えたらキリがない。当然のことですが、ちゃんと直すものもあります。でも信じられないことでしょうが、工期や工事費の都合で、メーカーや電力会社が判断して直さないこともあるんです。私が経験した中では、福島第一の6号機に今も心配なことがある。じつは、第一格納容器内のほとんどの配管が欠陥なのです。配管破断は重大な事故に結びつく可能性があるだけに、とても心配ですが......」

出典: 「福島原発は欠陥工事だらけ」 担当施工管理者が仰天告白, 週刊朝日, 2002年9月20日号配信


東電の体質

今回の事故でも、東電側はどうでもいい数値を事細かに発表し、肝心の炉の異変についてはほとんど口を閉ざし、事態の悪化を覆い隠そうとしている。
 たとえば、2号機の格納容器内にあるサプレッションプール(圧力抑制室)の異常については、「格納容器の損傷」というタイトルではなく、「職員の移動」というタイトルで資料を配る。なぜ職員が2号機から退避したのかと問い詰めて初めて、格納容器破損の可能性があるから、ということになる。包み隠さずではなく、包んで縛って丸めて隠すのである。

未曾有の震災が暴いた未曾有の「原発無責任体制」, フォーサイト , 2011/03/15

保守管理の規定の期間を超えても点検を実施していない点検漏れの機器が見つかった問題で、東京電力は28日、経済産業省原子力・安全保安院に調査結果を最終報告した。報告では福島第1原発で新たに33機器で点検漏れが見つかった。県は「信頼性の根本に関わる問題」と東電に再発防止策の徹底を求めた。
 東電によると、福島第1原発で見つかった点検漏れは定期検査で行われる機器ではなく、東電の自主点検で定期点検が行われている機器。しかし、最長で11年間にわたり点検していない機器があったほか、簡易点検しか実施していないにもかかわらず、本格点検を実施したと点検簿に記入していた事例もあった。

福島第1原発で新たに33機器点検漏れ, 福島民友ニュース, 2011年3月1日 


原子力ロビー

この「原子力ロビー」には原子力事業を総括する経済産業省と同省の管轄である原子力安全・保安院、電力各社、電気事業連合会電事連)、そして発電所を建設する東芝や日立といった産業界の大企業が関与し、「非常に大きな資産と影響力」を誇っているという。また、原子力関連の官庁からの天下り社員が送られることにより、完全な「情報統制」を行うだけでなく、出版やテレビ局を通じて大規模な広告キャンペーンを繰り広げ「原子力は100%安全である」という神話を築いて来た。さらに、現在の与党民主党原子力エネルギー業界出身の組合員が多い労働組合「連合」を支持層にしているため、2009年の政権交代後もこの状況に変化はなかった。同紙は、「この行政、監督官庁原発建設企業そして電力会社間の緊密な関係が原発反対派を黙殺し、さらに原子力に関するあらゆる疑問を回避してきた」と指摘。電力各社は「1970年代以降から度重なる原発事象を隠蔽、改ざんし続けて来た。当時最も批判が集中したのは東京電力である」と付け加える。

出典: 福島原発 「東電の罪」と「原子力ロビー」(仏ル・モンド紙報道), OverBlog